「医療者には倫理的視点が大切」
医療者であれば、一度は言われた経験があるのではないでしょうか。
大切なのは分かるけど、「なぜか頭に入ってこない」のが医療倫理ではないかと思います。
今回は、医療現場で役立つ医療倫理の基本について確認します。
🟨 この記事はこんな方におすすめ
- 医療倫理ってそもそも何?という方
- もう一度振り返りたい方
- 実際に倫理的問題に直面したことがある方
今回は、以下の内容についてご紹介します。
医療倫理ってそもそも何?
医療の現場では、さまざまな年齢の方が対象です。
仕事や家族構成もバラバラで、価値観も人それぞれです。
治療方針の決定や、療養上の問題、将来を見据えた選択を迫られるのが医療の現場です。
そこで問題になるのが、何を基準に「選択」するかです。
🟨 倫理と道徳
倫理:人として守り行うべきこと。善悪の判断で普遍的な基準になる
道徳:人が善悪をわきまえて正しい行為をなすために、守らなければいけない規範
道徳は、法律のような外的な強制とは異なり、
「自発的に正しい行為へ促す」といった、内的なものと考えることができます。
道徳は、一見すると判断基準として役に立ちそうです。
しかし、対象の範囲が広い医療の場では、
道徳は判断の基準になり得ないことが多いです。
「真実を伝える」は、道徳的には正しいこと
医療の場では、「患者がどうしてほしいか」が重要。真実を伝えることは必ずしも正しいとは言えない。
患者の価値観を重視して「選択」を支援します。
その場合、小集団に適応される道徳ではなく、
普遍的な基準である「倫理」が重要視されることになります。
【これだけは知っとくべき】医療倫理の4原則
倫理的問題には、4つの原則を活用して考えます。
🟨 医療倫理の4原則
- 自律尊重原則:自己決定を尊重すべき
- 善行原則:患者の利益や幸福を追求せよ
- 無危害原則:害を及ぼすな
- 公正原則:公正/平等に扱うべき
自律尊重原則
「自己決定能力のある人に関しては、他者はそれを尊重すべき」というものです。
自己決定をするためには、判断材料が必要です。本人に対して適切な情報提供が求められます。
他者に強制されないことも重要です。
自らの意思で選択できるように支援していきます。
看護師は「アドボケイター(advocater)」である
意思表示がうまくできない患者の代わって、意見や権利を主張する代弁者のこと。
善行原則
“医療者視点“での善行ではなく、
“患者視点“での善行であることが大切です。
何が「善」であるかを、慎重に審議していきます。
無危害原則
良い成果を与える以上に、まずは危害を避けることが基本です。
看護師は、患者が被るリスクを最小限に留めるように支援していきます。
公正原則
平等は、基準をどこに置くかで変わります。
何を基準にするか、慎重に吟味する必要があります。
4原則の活用方法
いきなり原則で考えるのではなく、状況整理から始めます。
倫理的問題は取り巻く状況が複雑なことが多いため、
「4分割表」の活用がおすすめです。
🟨 4分割表の活用
- 医学的適応
- 患者の意向
- 患者のQOL
- 周囲の状況
4項目に沿って情報を整理していきます。
分かっている情報や不足している情報を確認し、
全体像を把握していきます。
介入するポイントを見極め、最善の成果が得られるように検討していきます。
医学的適応 | 患者の意向 |
・診断/予後 ・治療内容や目標 ・治療の成功確率 ・それに伴うリスク ・無益性 | ・本人の判断能力 ・説明と同意 ・治療希望や拒否 ・事前の意思表示 ・誰に代理決定してもらうか |
患者のQOL | 周囲の状況 |
・QOLに影響する内容 ・治療しない場合の生活 ・緩和ケアの適応 ・本人の喪失感 | ・家族や周囲の人 ・経済面 ・法律や信仰宗教 ・施設の方針 ・守秘義務 |
日々の業務に追われがちですが、
「本当にその選択が正しいのか」立ち止まってみることが大切です。
🟨 脅かされる原則を確認
本人に十分な情報提供がされていない場合は、
「自律尊重原則」が脅かされている!
といった具合です。
家族(代弁者)はこうしたい!
医療者としてはこうした方がいい!
というように、原則が対立する場合があります。
(患者)自由に過ごしたい(自律尊重原則)
(看護師)転倒して骨折するリスクが高いから行動制限する(善行原則)
どちらも間違いではないけど、共存するのが難しい例です。
本人の思いが置き去りにならないように、看護師が調整役になることが大切です。
関連記事>> 看護師が感じる倫理的な問題とは!?|たった4つの手順が解決に導く!!
なぜ倫理的問題を議論するのか
医療者の倫理観で、提供される医療やケアが変わるからです。
患者の価値観はそれぞれです。医療に求めているものもそれぞれです。
何を重視したら「より良い状況」になるのか
が人によって異なるのです。
つい「正解」を求めてしまいがちですが、
倫理的問題に、「正解」はないと言えます。
参考図書
手順をおさらい
1.日常の中の「モヤモヤ」をキャッチする
2.キャッチした問題を、「4分割表」で整理する
3.「倫理4原則」で脅かされているもの、対立しているものを見つける
4.どうしたら患者が「より良く」なるか、みんなで集まって相談
5.「人の気持ちは変化する」ことを前提に、1〜4を繰り返す
🟨 結論の出し方
最終的にどうしてその結論に至ったのか
具体的に説明できることが大切です。
結論はこれ!ではなく、
そこに至るプロセスを重視することがポイントと言えます。
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