「医療者には、医療倫理が必要」
なんて耳にしますが、
「倫理」と聞くと、なんか難しそう、できれば関わりたくない、と感じるものです。
ですが、医療倫理を知らずに、働き続けることはなかなか難しいと言えます。
倫理のプロになれとは言いません。
「こんな感じ」くらいの理解でいいので、大枠は掴んでおきたいものです。
🟨 この記事を読むと
- 医療倫理/看護倫理の全体像がわかる
- 具体的な事例についてイメージできる
- 問題の背景にある課題を見つけるコツがわかる
今回は、以下の内容についてご紹介します。
こんな場面に遭遇したらどうする?
事例をもとに考えてみます。
90歳 男性 要介護4(ほぼ寝たきり)で施設入所中。
呼吸苦を主訴に救急搬送され、弁膜症による心不全の診断あり。
急性期は脱したものの、再発予防のために手術が検討された。本人は軽度の認知機能障害のため、意思決定能力は不十分と判断され、家族に対して病状説明を行い家族が手術を希望された。本人は手術の詳細を理解していない。
もしこんな場面に遭遇したら、あなたはどう感じるでしょうか。
どうしていいかは分からないけど、
このままにしておくのも、あまり良くなさそうです。
倫理問題かは分からなくても、「何となく気になる」場面に対して
まずは立ち止まることができる、ということが大切です。
🟨 解決に導く【4つのポイント】
- 患者を取り巻く情報を整理する(4分割表の活用)
- 不足している情報を集める
- 4つの倫理原則に沿って、原則が対立する部分を見つける
- 患者本人の意向を最優先で最善策を検討する
4つの倫理原則は、「自律尊重原則」「無危害原則」「善行原則」「公正原則」でした。
関連記事>> 看護師が知っておくべき医療倫理4原則!!何をしたらいいの?を解説
何も派手なことをする必要ありません。
上から順番に、一つずつ順を追って進めていくだけです。
情報の整理(4分割表の活用)
どの情報が十分で、不足している情報は何か
これを可視化するためにも、「4分割表」の活用は非常に有効です。
医学的適応 | 患者の意向 |
・90歳 男性 ・心不全(弁膜症) ・心不全の急性期は脱した ・手術適応あり ・手術で得られるベネフィットとリスクは? | ・不明 ・そもそも状況を理解している? ・意思表示は本当にできないの? |
QOL | 周囲の状況 |
・要介護4(ほぼ寝たきりの状態) ・軽度の認知機能障害あり ・これまで大切にしてきたことは? ・楽しみにしていることは何? | ・家族は病状説明を受け、手術を希望した ・家族はその他の家族にも相談した? ・家族が「本人は希望するか」の視点を持っている? |
簡単にまとめただけでも、結構な情報が不足していることが分かります。
その中でも、最も大切な「患者本人がどうしたいか」に関する情報が不足しています。
それが分かれば、次の段階「不足情報の確認」に移ります。
倫理原則は対立しているか?
追加の情報収集により、以下のことが分かりました。
医学的適応 | 患者の意向 |
・90歳 男性 ・心不全(弁膜症) ・心不全の急性期は脱した ・手術適応あり ・手術により心不全の再発リスクが軽減する ・全身麻酔や手術に伴う合併症のリスクは高い | ・病状理解は曖昧 ・手術は希望しない |
QOL | 周囲の状況 |
・要介護4(ほぼ寝たきりの状態) ・軽度の認知機能障害あり ・家族を大切にしてきた ・孫の顔を見ることが楽しみ | ・家族は病状説明を受け、手術を希望した ・他の家族にも声はかけた ・家族が患者に長生きしてほしいと思っている |
患者本人は、手術を希望していないことが分かりました。
一方で家族は、患者に長生きしてほしいと願い、手術を希望しています。
追加で情報収集したことで、本人の意思が見えてきました。
このまま手術に踏み切った場合、「自律尊重原則」を脅かす結果となりそうです。
情報を整理したことで、これは「倫理的問題」ではない可能性出てきました。
本人を含めた、十分な情報提供とコミュニケーションで結論を出していけそうです。
🟨 倫理原則が対立する状況って?
この事例において、
「手術のリスクが非常に高い」
一方で、「患者本人がどうしても手術をしてほしい」
といった状況であった場合、
医療者側の「無危害原則」と、
患者側の「自律尊重原則」が対立する可能性があります。
このような状況であれば、「医学的適応」があるのか
慎重に検討する必要がありそうです。
問題の背景には何がある?
医療現場にいると、患者や家族の希望は多様化していることを感じます。
患者が高齢であるほど、自己決定が難しく、
家族が「代理意思決定」をすることになります。
その選択は、「患者本人が希望しそう」なものか/「家族の希望」なのか
看護師には、患者・家族の意思決定をサポートする役割があります。
「何となく」「その場の雰囲気」
で選択をするのではなく、主人公は誰なのかを
再確認することで、「本人にとっての最善」は何か
検討していけるように、サポートできれば、そこに看護師が介入する意義があるのではないでしょうか。
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