認知症は、本人はもちろん、家族の生活にも大きな影響を及ぼします。
日本の高齢者人口は、現在断トツで世界1位です。それは、第2位であるイタリアのおよそ2倍です。
「加齢」が最大の要因となる認知症は、そんな日本において、爆発的に増加しています。
今回は、そんな認知症について解説していきます。
🟨 この記事はこんな方におすすめ
- 認知症高齢者の現状について知りたい方
- 認知症という状態について知りたい方
- 認知症高齢者へのケアの方法について知りたい方
今回は以下の内容についてご紹介します。
認知症高齢者の現状
2023年9月における、高齢者人口(65歳以上)は、3,623万人です。
高齢化率にすると、29.1%にも及びます。これは、日本においても過去最高です。
認知症高齢者の人口は、2025年には約675万人に上るとの推計が出されています。
認知症高齢者の割合としては、65歳以上の高齢者の「5.4人に1人」は認知症ということになります。
🟨 医療機関における認知症患者
一般病棟で2割程度、療養病棟では6割以上を認知症患者が占めているという現状があります。
私の勤務する総合病院でも、例外ではありません。認知症患者がいる状況が日常となっています。
認知症患者は、自身の置かれている状況を、正確に把握することが困難です。
転倒やルートトラブル等の事故・合併症の増加、在院日数の延長に伴う医療コストの増大など、といった問題が挙げられます。
🟨 認知症患者の在院日数が延長する理由
- 指示に従えず必要な治療が行えない
- 転倒などによる合併症ハイリスク
- 退院調整が難しい
特に、「退院調整の困難さ」は認知症患者の最大の特徴とも言えます。
介護負担の増大を理由に、自宅退院が困難となり、施設入所を希望される割合が高まります。
施設入所を希望される方が多く、一般の患者と比較すると、約8倍にも増加します。
認知症高齢者は一度入院すると、自宅退院へのハードルが非常に高くなってしまいます。
認知症という状態
「高齢者の約5人に1人」という割合で発症する認知症について解説します。
認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態
認知症とは、正確には「病気」ではなく、「状態」と捉えることができます。
🟨 代表的な認知症
- アルツハイマー型認知症(約68%)
- 血管性認知症(約20%)
- レビー小体型認知症(約4%)
① アルツハイマー型認知症
脳に「アミロイドβ蛋白」という異常蛋白が蓄積し神経細胞死を引き起こします。
「細胞死」のため病状の改善は期待できず、原因不明のため治療が困難です。
迷子になったり(視空間認知能力の低下)、病識がなくなったり(記憶障害)するのが特徴です。
② 血管性認知症
血管の梗塞・出血が原因となり、部分的に神経が損傷することで、機能障害が生じます。
神経の損傷部位により、障害が異なります。まだらぼけのような状態になることが特徴です。
③ レビー小体型認知症
「αシヌクレイン」という異常蛋白が蓄積し神経細胞死を誘導します。
後頭葉を中心に発症するため、幻視やパーキンソン症状が見られるのが特徴です。
認知症の主な症状とは
認知症の症状には、「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」が存在します。
🟨 中核症状
中核症状は、認知症高齢者に共通する症状です。
- 記憶障害
- 見当識障害
- 実行機能障害
- 視空間認知障害
- 失語、失行、失認
○記憶障害
記憶の一部が丸ごと抜け落ちる
※長期記憶は保たれるため、昔のことは覚えている
例:目覚めた時に自分がどこにいるのか、何をしていたのか全く分からない → 不安、恐怖を感じる
○見当識障害
日付、場所、人が分からない
※認知症の進行に伴い、「日付→場所→人」の順に分からなくなる
○実行機能障害
予測したり、段取りを組んだり、比較する能力が低下する
例:食事の準備や買い物ができない、失敗すると分かっていても修正できない、人の手を借りることができない
○視空間認知障害
目の前の複数の物の位置関係や自分との位置関係を把握する能力が低下する
例:食べ物を口にうまく運べない、トイレの便座にうまく座れずにずり落ちる
○注意障害
必要なところに注意が向けられない、気が散る
例:TVに気を取られて食事ができない、部屋が散らかっていると集中できない
○失語、失行、失認
言葉が出てこない(失語)、ものは分かっても扱えない(失行)、それが何か認識できない(失認)
例:箸というのは分かるがどう扱っていいか分からない、食事を前に食べ物かどうか分からない
🟨 行動・心理症状(BPSD)
BPSDは、中核症状によって引き起こされる二次的な症状のことを言います。
- 行動症状(活動性亢進)
- 心理症状(感情・精神障害)
○行動症状(活動性亢進)
不穏や徘徊、攻撃性、異食、拒絶、拒否、焦燥、睡眠障害といった症状が見られます。
これらの症状が、介護負担を増大させる要因になります。
○心理症状(感情・精神障害)
不安や抑うつ、無為、幻覚、妄想、誤認といった症状が見られます。
これらも、問題行動と捉えられることが多く、介護負担の増大に繋がります。
これらの症状は、伝えたい事が上手に表現できない苦痛・感情の表れと捉えることが出来ます。
生活環境や人間関係の影響を受けやすく、症状の現れ方には個人差が大きいのが特徴です。
認知症高齢者に必要なケア
認知症高齢者との関わりで、大切なポイントについてご紹介します。
特に「注意障害」への配慮が大切です。
注意障害は、注意(集中)を向けたり、維持することが困難な状態です。いかに自分に注意を向けてもらうかがポイントです。
🟨 注意障害に対する関わり方
- 視野の中に入って声をかける
- 一般的な距離感よりも一歩近いところから話す(よりはっきり、大きく映る)
- 肩や手に触れる、物を見せるなど複数の刺激を用いる
- アイコンタクトを心掛ける
次に重要なのが、「記憶障害」への配慮です。
記憶障害は、ある出来事が丸ごと記憶から抜け落ちてしまう状態です。状況を説明しながら、相手の理解をサポートする関わりが大切です。
🟨 記憶障害に対する関わり方
- 状況を紙に書く(自分で見て、確認できるようにする)
- 会話は短い文章で具体的に伝える
- 名前を含めながら話す(相手が慣れている名前を用いる)
- 返事を待つ(理解する、反応するまでに時間が必要)
続いて「実行機能障害」への関わり方はどうでしょうか。
実行機能障害は、予測や判断能力の低下により症状が出現します。低下した能力を補う工夫が必要です。
🟨 実行機能障害への関わり方
- セルフケアへの支援(自分でできるように調整をする)
- 環境を整える(トイレに目印をつける、予定を確認できるように掲示する)
- 定期的に声をかける(そろそろトイレどうですか等)
最後に「苦痛の軽減」についてです。
自分の状態や感情を表現できずに、漠然とした「不快」を抱えがちです。言語的な情報だけでなく、些細な変化を捉える意識が必要です。
🟨 苦痛軽減への関わり方
- いつもと違う表情や行動がないか確認(落ち着きがない、同じ動作を繰り返す、涙を流す、夜間眠れていない等)
- 入院中は、痛みの有無を確認する(認知症の人の痛みは過小評価されがち)
まとめ
高齢化が進む日本では、認知症への理解は必須とも言えます。
自宅生活が継続できない、入院中に事故やトラブルの原因となることもあり、適切な介入が必要です。
入院中も、
・知らない世界に連れてこられた!
・知らない場所へ連れていかれる!といった感じ方をしている可能性があります。
「あの人は認知症だから」と安易に決めつけず、穏やかに過ごすための工夫を、日常の中に取り入れていけたらいいですね。
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