我が国は、世界で最も高齢化率が高く、最多の高齢者人口を抱えている現状があります。
加齢が大きな要因となる「認知症」は、2022年時点で約443万人とも言われています。
最新の発表では、認知症高齢者は2040年に約584万人まで増加する見込みとのことです。
今回は、そんな我が国で増加傾向を辿る認知症高齢者の寿命について解説します。
🟨 この記事はこんな方におすすめ
- 認知症高齢者の寿命を知りたい方
- 認知症の重症度について知りたい方
- 生活への影響と支援方法を知りたい方
こちらの記事も合わせてお読みいただけると理解が深まると思います。
今回は以下の内容についてご紹介します。
認知症高齢者の寿命
まず前提として、認知症は進行性の病気です。症状の進行具合には当然ですが個人差があります。
近年では、様々な研究により寿命に関する一定の目安が示されています。
🟨 認知症高齢者の余命
発症から「5〜12年」
繰り返しになりますが、認知症は「進行性」の病気です。軽症から重症まで程度は幅広く、それに伴い現れる症状も変化していきます。
認知症「病みの軌跡」
認知症の重症度/出現する症状
🟨 初期〜軽度
「もの忘れ」などの短期記憶障害が見られるようになります。一方で、昔の記憶(長期記憶)や社会性は保たれているのが特徴です。
家族や周囲の人から見ると、「認知症ではない」と評価されがちです。
しかし、金銭管理をはじめ、慣れているはずの作業が難しくなってきます。「日付の間違え(見当識障害)」が出現してくるのが、この時期の特徴です。
🟨 中等度
記憶障害が進行し、最近の出来事をすぐに忘れてしまう、昔の記憶が曖昧になるといった症状が出現します。
また実行機能障害が進行し、失禁の回数も増加します。入浴や着替えといった日常の動作が、上手に行えなくなるという特徴があります。
中等度以降では、生活動作への影響が大きく、介護負担が増大します。
🟨 重度認知症
会話の内容や、日頃の出来事が理解できなくなります。また身近な人の区別がつかなくなり、会話の減少や意思疎通が困難になります。
同時に、身体症状が目立つようになります。代表的なものとしては、歩行障害や食事中のむせ等が見られるようになります。
介護者(家族)は、認知症発症前とのギャップに、「その人ではない」といった喪失感を経験することになります。
介護者が無力感や抑うつ、不安といった状態に陥ることがあるため注意が必要です。
🟨 終末期
身体症状が更に強くなり、寝たきりの状態となります。痙攣や筋硬直、無動といった症状が見られるのが特徴です。
飲み込みの機能が低下することで肺炎を発症したり、失禁などから尿路感染を発症するリスクが高まります。
認知症が直接的な原因ではなく、身体症状に伴う「感染症」などで最期を迎えることも少なくありません。
生活への影響と支援方法
認知症の重症化に伴い、日常生活にも様々な影響が出てきます。
認知症は、発症した本人も辛い経験をしますが、その介護者も同様です。
重症度ごとの支援方法と、生活場面ごとの支援方法の2つに分けて解説します。
🟨 重症度に合わせた支援方法
軽度認知症
軽度認知症では、「記憶障害」や「実行機能障害(実行するのが難しくなってきた内容)」が出現します。これらを補完し、自立した生活ができるように支援することが重要です。
- メモ、手帳、カレンダー等の活用
- 時計や携帯電話(スマホ)のアラーム機能の活用
- 大切なものは保管場所を決める(目立つところが望ましい)
中等度認知症
中等度認知症では、長期記憶障害(昔のことも忘れてしまう)や実行機能障害が顕著になり、日常生活への影響が大きくなります。
- 生活の中で、出来ないところを“さりげなく”手伝う
- 1つ1つの動作を言葉と行動でも示しながら誘導する
- 本人が誇りに思っている、楽しかった頃の話題を会話に盛り込む
- 介護者の負担の大きい内容に合わせて、必要なサービスの導入を検討
重度認知症
重度認知症では、会話や出来事の理解力が低下し、身体症状が目立つようになります。些細な変化を捉えたり、複数の支援者での協力体制が必要です。
- 非言語的(表情やしぐさなど)なサインから本人のニーズを汲み取る
- 非言語的なコミュニケーションや意図的に触れるなど、感情に働きかける
- 本人が何を望んでいるか複数の人間で検討する
終末期認知症
終末期認知症では、身体症状が強くなり、介護者の負担が非常に大きくなります。自宅での介護はあまり現実的ではないかもしれません。
- 症状観察と苦痛緩和を図る
- 最期まで一人の意思のある存在として関わる
- 家族が後悔しないように関わる
🟨 生活場面に合わせた支援方法
認知症の進行に伴い、食事や排泄、入浴など生活の基本となる行為にも影響が出てきます。
継続的な支援が必要なため、介護者は「認知症」であることを受け止めつつ、支援を行う難しさを経験することになります。
生活場面に合わせた支援方法について解説します。
🔸「食事」の場面
食事が不十分になると、栄養状態の悪化や免疫力の低下を引き起こします。
まずは「食事を食事と認識しているか」が重要です。
「レビー小体型認知症」では、幻視が出現するため、食事に虫やゴミが混入しているように見えることがあります。
「失認・失行」といった症状から、箸やスプーンが適切に扱えず、食事が進まないことがあります。
また「注意障害」により、周囲に気を取られやすくなります。食事が進まない理由の一つに、食事に集中できないことも考えられます。
高齢者は、口腔内が乾燥しやすく、それが原因で食事が進まないこともあり得ます。
- 食事に集中できる環境を作る(食事中はテレビを消す、机の上を片付ける)
- 幻視がある場合、食事を再配膳することで症状が落ち着くことがある
- 箸やスプーンが扱えない場合、手に持たせてみたり、一緒に使ってみると効果的
🔸「排泄」の場面
排泄行動の自立は、自尊心を保つために非常に重要です。
介助者は、排泄援助により本人の自尊心が低下している事を理解しておく必要があります。
住み慣れた自宅であれば、習慣的にトイレまでの移動は可能です。しかし、入院などで生活環境が変化した際には注意が必要です。
「トイレの場所が分からない」「トイレから帰って来れない」といった状況に陥りやすくなります。
また空間認知障害により、便座との距離感が掴めず、座り損って転倒する危険性があります。さらに、実行機能障害により困った時に手助けを依頼できないこともあります。
- トイレの場所に目印をつける
- 夜間はトイレに灯りをつけておく
- 本人のできること(能力)は奪わない
- 次の動作を一つずつ伝える
🔸「入浴」の場面
入浴は、「浴室へ移動」「脱衣」「体を洗う」といった具合に工程が多く、難易度が高い行為です。
入浴に全介助が必要な場合には、介助者の負担が非常に大きくなります。その場合、福祉サービスの利用を積極的に検討すべきです。
各施設での入浴ケアでは、自宅での入浴時刻を確認し、その人の生活リズムを継続出来るような配慮が必要です。
- 入浴を拒否する場合、本人が抱える不安を確認し解消に努める(金銭的な不安、羞恥心など)
- 入浴のリズム、時間帯の調整
🔸「生活」の場面
認知症の症状には「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」が存在します。
中核症状へのケア・支援を行うことが基本です。各症状に対しては、普段の生活に近づけるように支援することで症状の緩和が期待できます。
もの盗られ妄想
記憶障害による不安や寂しさがきっかけになります。身近な家族や、主介護者が「犯人」になることが多いのが特徴です。
本人の訴えを否定せずに聞くことが大切。一緒に探し、最終的に本人が見つけられるように配慮する。
不安や寂しさが軽減できるように関わると落ち着くことがあります。
帰宅願望
不安や寂しさ、恐怖感、居心地の悪さ、何もすることがない無為感などがきっかけになります。
「夕暮れ症候群」夕方になると症状が強く現れることがあります。
説明や説得は逆効果
男性「仕事に行かないと…」
女性「ご飯を作らないと…」
※この場合の「家」は幼少期を過ごした実家を指すことが多い
夕方にアクティビティや予定を入れる
介護者が意識的にそばにいる時間を作る
攻撃性
状況の判断ができなかったり、意思表示ができないことによる苛立ちがきっかけになります。
防御反応としての行動や、嫌な状況に「嫌」と言えずに攻撃的な行動に出てしまうことがあります。
落ち着いて、穏やかな態度で関わる
本人が嫌がることを無理強いしない
やろうとしている事を中断させない
徘徊
徘徊をしてしまう理由には、いくつかのパターンがあります。
- 誤認:場所の見当識障害(目的の場所にたどり着かない)
- 願望:家に帰りたい、仕事に行きたい
- 無目的情動:特に目的はなく漫然と歩き回る
- 意識変容:幻覚や妄想のために歩き回る
徘徊をしている理由を確認し、対応を検討するようにします。
安全の確保を優先し、見守りが必要です。時には、GPS装着の検討が必要な場合もあります。
まとめ
認知症は、現代ではもはや一般的な病気です。
同時に、非常に奥が深い病態でもあります。
認知症となった本人も、徐々に自力で出来ることが減っていく恐怖と対峙することになります。
支援者は、本人の尊厳の維持と症状の緩和のために、頭を悩ませることになります。
少しでも長く、本人が自立した生活を送れるようにサポートしていくことが大切です。
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